美しい彫刻のような本で、それを眺めるような読書だった。
シンプルだけれども複雑で、ところどころ鋭利な切先があって、すっとひとり立っている。ただそこに立って、自立している、そんな本。
こちらになにかを投げかけたり、ましてや共感を求めることもない。
だからその切先に怖さや反発はない。こちらとは適度な距離感で、ただそこに"ある"だけ。
遠い世界の違う時代*1を生きていた記録。
それも含めて、わたしにとっては貴重な本だった。すきです。
- 作者:サリンジャー
- 発売日: 1974/12/24
- メディア: 文庫
今回読後の印象が強烈だったのは「コネティカットの〜」。なんというか、胸を掴まれる思い。
「笑い男」も「小舟のほとりで」も前回より強く印象に残っている。
今回はひとつ読むごとにWikipediaなどで解説を読みながら読んでみたところで、
いかに自分が物語の表面をなぞっていただけかを思い知らされた。痛烈に。
- 作者:川上 未映子
- 発売日: 2019/09/06
- メディア: 文庫
「あぁこれこれ」といった馴染み深さを感じつつ。
文庫本で追加された、雑誌「ELLE」の連載と最後の対談部分、前半とのトーンの対比がすさまじい。
表題部分の連載で多く話されているのは、個人のこと(幼少期の思い出含む)だったのに対して、
こちらでは世界的メゾンのこと、そして社会のことへと、お話のスケールがどんどん大きくなるさまに圧倒されるなど。
もちろん(連載、そして対談の)場の力によるところもあるんだろうなと思いつつ、
どっちも大切なお話だし、耳を傾けていたいな、と
そう思わせられるのは、わたしが「未映子さんの文章」の読者だからなのかなぁ。
* * * * * * *
世の中は少しずつ動きはじめているけれど、わたしにとってはまだまだまったく動いてなくて。
それはたぶん、ライブも試合もなくて、出かける予定もないからで。
それがあってはじめてわたしの「生活」が成り立つのかもしれないなぁ、などと。
そんななか、いちばん身近な「心の病院」へ、現地へ行けたことがどれだけ大きいことだったか。
改装工事が終わったばかりの、猪熊弦一郎現代美術館へ。
(撮影可の某展示作品をアップで撮影)(これだけ見てもさっぱりわからんね)(…)
中のつくりがほぼ変わってなくてうれしかった!
安心感のある天井の高さも、踊り出したくなる床も、何十分も眺めていられる窓の、そして展示室の景色も。
リニューアルしたカフェにはまだ行けてないから、近いうちにうち行くつもり。
こうやって少しずつでも、ひとつずつでもいいから、
これまで近くにあった(そして今回離れてしまった)しあわせが帰ってきますように。
そのためにも、新しいものを受け入れる努力もしないといけない、ね。
*1:こちらも生まれてはいたけれど