Dreamin' Dawn

たいがいまぁまぁのポエム

<2020年11月の読書記録>

ショートカット (河出文庫)

ショートカット (河出文庫)

短編集、何度目かの再読。「やさしさ」がすきだったな。

千の扉 (中公文庫)

千の扉 (中公文庫)

柴崎さんの小説についての解説や評論を読むと、さまざまな人から同じように評されていることがあって。
たとえば、これは今作の解説にある岸政彦さんの言葉。

柴崎の小説にはいつも、ここではないどこか、いまではないいつか、わたしではないだれかに対する、ひそやかな想像が描かれる。それが柴崎の小説の、もっとも重要なテーマだと思う。

これまで柴崎さんの著作のうちのほとんどを読んできたけど、
こういった解説における、小説家としての柴崎さんを評する言葉(作家評というやつか?)や、柴崎さんの小説の特徴を説明した言葉(同じか?)が
反論はしないものの、どうもいまいち腑に落ちなくて。たいがい読み流していたんだけれど。

でも、今回の解説の最後を読んで納得した。こういうことが言いたかったのか、と。

しかし、閉じられたその頁のなかで、誰にも読まれないままに、膨大な人びとの人生が続いていくことを、つい想像してしまう。だから、柴崎友香の作品には、終わりがない。

柴崎さんの小説に出てくる人びとは、そんなに特別じゃなくて。
実際にどこかにいそうだし、同じ時代を生きているような気すらしてて。

だから再読のために本を開くと、登場人物の存在を思い出すような感覚になることがある。
実際にこれまでに会った人たちのことを思い出すのと同じように。
たとえば卒業以来会っていない同級生や、新卒で入った会社の先輩、
子どものころ親戚に連れて行かれた居酒屋の常連さんのように、
"いまの"わたしの生活にいない人たち。
そんな人たちのことを「いまどうしてるのかな、元気かな」と思い出すような感覚。

これはわたしが柴崎さんの小説を集めてしまう理由にも繋がっているんだろうな。
読み返そうと開くことで、「そういえばこんな人いたな、元気にしてるかな?」といった気持ちになる。懐かしさ。

「(なんでもよくはないけれど)なにか本を読みたい」というとき、たいてい手に取るのは柴崎さんの小説で、
だからお守りのように手元に置いてる。
静かで、落ち着いていて。起承転結はあるんだけど、どこか淡淡としていて。その具合が居心地がいいんだと思う。居心地。

もうひとつ理由を挙げるなら、しゃべらなくても考えている主人公が多いこともあるのかな。
たぶんあなたもわたしもみんなそうなんだろうけれど、そういう時間のことをほかの人とわざわざ話すことってなくって。
だからこそ、柴崎さんの本にはそういう時間を共有できる知人のような、そんな感覚があるのかもしれない。